• 2025.01.29
  • アスリート支援

【アスリートインタビュー #2】百合草 碧皇選手

自分のクライミングを追求して「自分にしかできない登り」を

百合草 碧皇

生年月日:2002年9月21日 (22歳)
出身地:愛知県
主な戦績:
2019年 IFSC 世界ユース選手権 アルコ大会 複合1位 ボルダー1位
2022年 IFSC クライミング・ワールドカップ ジャカルタ大会 リード1位
同年 同インスブルック大会 リード2位
2023年 ボルダー&リードジャパンカップ2023 2位
同年 IFSC クライミング世界選手権 ベルン大会 リード5位
2024年 リードジャパンカップ2024 3位

当社がスポンサー契約をしている、スポーツクライミング 百合草 碧皇選手に、スポーツクライミングへの取り組み方やサポートしてもらった出来事、今後のキャリアなどについてお話を伺いました。
世界的な大会で好成績を収めている現役のトップアスリートの競技に対する姿勢を伺い、また百合草選手の真摯にご自身に向き合う姿勢に多くを学ばせていただきました。

初めて代表になった時に「クライミングを突き詰めたい」という気持ちがでてきた


ー スポーツクライミングを始めたきっかけについて聞かせてください。

実家近くのクライミングジムに見学に行ったのがきっかけで、それで通い始めたらすぐ靴も買ってのめり込んでいきました。

ー 当時スポーツは何かされていたのですか?

小学4年生の時から野球を始めたのですが、そこから本当に1年半ぐらいしかやらなくて、入れ替わりでクライミングを始めてからはずっとクライミングです。
スポーツ自体は昔からすごい好きだったので、よく公園に友達と行った時は毎日サッカーをしていたのでサッカーをやりたいなと思っていたのですが、小さい時は小柄だったり体が弱かったところもあったので。
その点でクライミングは個人スポーツでなおかつスクールだとか関係なく通えるっていうことで、マイスペースで競技を始められるっていうことがきっかけで始めました。小学校の頃はほぼ毎日行ってました。

ー スクールのようなところで教えてもらっていたのですか?

基本的に独学です。本当に小学生の時とかは施設に趣味で通っている大人の方が「こうやるといいんだよ」みたいなことを結構教えてくれて、コミュニティがあったのでそこで教えてもらったりはしてました。今もクライミングのコーチ自体はいなくて、独学です。
フィジカルトレーナーの方だとか、他の方面からのコーチングは受けたことがあるのですが、純粋なクライミングのテクニックは自分で考えています。

ー 高校生の時に世界ユース選手権を優勝されて、早稲田大学を選んだ理由はなぜですか?

高校で初めて代表になって、シニアの代表にも高校3年生で初めてなったのですが、そこからもう少しクライミングを突き詰めたいという気持ちがでてきました。
大学に行くならやっぱり自分が学びたいことを勉強したいと思って、スポーツをもっといろいろな角度から見て競技力を向上できたらいいなと思って早稲田に行こうと決めました。トップアスリートがたくさんいる部分も勉強になるかなと思いました。

ー 実際に入ってみてどうでしたか?

全員じゃないのですが、スポーツをやってるとかスポーツが好きな人しかいない学部なので、その部分がすごい特殊な環境でいろいろな刺激をもらいました。
スポーツはすごい昔から好きだったのですが、やっぱりそんなに理解はできていなかったので、それをいろんな分野の先生たちから細かいところまで理解できたので、競技力向上にすごい役に立ったなと思いました。

ー ちなみに卒論のテーマは何でしたか?

時差とアスリートの影響や関連性について調べました。
シーズン中に海外に行くことがすごく多かったので、その中で自分に役立ちそうなテーマで考えました。自分しかできないことだし、競技をしている人にも役に立つのではないかと思って研究しました。

ー どういう結論に至りましたか?

やっぱり一般的に影響はすごいあるのですが、スポーツクライミングに関しては、大会の開催地は基本的にヨーロッパで、特にリード種目はヨーロッパが多いです。
ヨーロッパに関しては意外と影響は少なくて、睡眠時間に関しても比較的影響は少ないのですが、睡眠の質と一緒に深部体温を測った結果、そちらは少し影響があって、やっぱりベストな状態に持っていくにはそれなりに3日、4日は必要だなと思いました。そうすると、前入りするタイミングは少し考えないといけないと感じました。

ー ありがとうございます。大学生でワールドカップを優勝されていたりと、競技を始めてから大きな舞台にどんどん駆け上がっていかれた印象ですがいかがですか?

そうですね。公式大会に初めて出たのが中学2年生で少し遅かったのですが、ユースのカテゴリーでは予選落ちを1回しかしたことがなくて、割とスムーズにいけたと思います。

目の前で見た「ヨーロッパのレジェンドクライマー」


ー 昔からボルダーとリードを並行してやっていますか?

そうですね、今は特にリードを重点的にやっていて。
初めてワールドカップに出場した時に、リード種目でヨーロッパのすごい昔から活躍し続けている選手が登っている姿を見て「すごくかっこいいな、あれぐらいクライミングを極めれたらいいな」と思って、そこからリードを結構真面目にやるようになりました。
でもやっぱりボルダリングは本当に始めた時からやっていて好きではあるので、ずっと続けていてそちらでも活躍できたらなと思っています。

ー 練習割合は今どのくらいですか?

本当に半々でやっています。ボルダリングの練習がリードにも活きるので、ボルダリングをなしにすることはできないので交互でやっています。

ー 練習内容の質はどんな違いがありますか?

ボルダリングはすごい高度な動きが求められるので、どうやったらクリアできるかということをすごい考えて、いろんな方法を試してどれが正解かなと考えます。

リードに関しては、一手一手耐えて登って一番高いとこまで行くということにフォーカスしているので、ある意味その一手一手に集中して過程を大事にして最後までいけるように考えています。
リードだと体力配分も含め、前半と中盤が後半に影響してくるので下から内容を考えて登ろうと考えています。

ー リードは通しで練習するのですか?

基本的には通しで練習します。登る前にコンペの時と同じで6分ぐらいオブザベーション(※課題を見て事前に登りの想定をすること)をして考えたら、あとは体力トレーニングと思って何本も練習します。

ー ボルダーだと、もっと細かいところを詰めるみたいなイメージですか?

はい。やっぱりやり方を変えていかないとできないことが多いので、いろいろ工夫して「これだったらいけるかな」のように、何回もトライして徐々に正解に近づけていくというイメージです。登り終わった後に修正ポイントがパッて思い浮かぶことが多いので、それをずっと繰り返すというイメージです。
ボルダリングでもリードでも、練習の時は内容を重視しているので「できた」「できない」よりも「どういう風にしたらできたのか」「どういう風だったからできなかったのか」ということを考えています。
練習の時はあらかじめ考えてから登るようにしていて、実際にやってみて違ったということは、このやり方ではいけないから「もうちょっとこういう風にできたらいけるんだろうな」ということを、ボルダーでもリードでもやっています。

ー そうすると、外からのインプットというよりは、自分が体を動かしている中で、できる範囲を広げていくような練習の仕方ですか?

知識を入れるために大会の動画だとか他の選手の動画だとかを見るは見るのですが、やっぱり自分にしかできない登りを追求していっているので、自分ができる登り方を考えています。

ー 今取り組まれていることは何ですか?

特にリード種目はヨーロッパのレジェンドクライマーたちに日本人がなかなか勝てていないので、そこを強くなってしっかり戦えるようにするために根本的な持久力を向上させたいと考えています。性格的にも忍耐強さだとか我慢強さが長所と思っていて、その課題だけで勝てるのではなくて、どんな課題が来ても安定して自分の持久力が出せるようなクライマーになりたいなと思っています。

ー そうなのですね。試合に向けての管理方法はありますか?

そうですね、基本的には試合の1週間前ぐらいからは、100%で疲れてしまうような練習は控えていて、オールマイティーにどんな動きも対応できるようにいろんな動きを練習しています。
例えばボルダリングだったら、1つのすごく難しい課題に打ち込むのではなくて、いろんな施設に行っていろんな課題を触っていろんな動きに対応できる状態で、試合に臨むようにしています。

ー 本番で心がけていることはありますか?

普段練習で気づいたことをノートにメモしたりしているので、技術的な部分はそれを見返します。
あとは、メンタル面はもうほんとに「頑張るだけ」の気持ちでいきます。周りのことを考えるよりは自分の世界に入って、自分のやることに集中してやろうと考えています。

ー 逆に、普段しないようにしていることはありますか?

基本的には、練習の波をあんまり作らないようにしていて、大会だとかシーズンが終わったからすごく休むということは基本的にはしないですね。
自分の感覚を大切に登っているので、あんまり登らない時間を長く作りたくないです。普段から疲れていても時間を短くして登りに行って、感覚がなくならないようにしています。
大会後も、疲れていたら軽く体を流す程度で壁を登りに行きます。

ー ご自分の感覚を一番大事にされているのですね。では、競技上で振り返ってみてターニングポイントだったと感じることを教えていただけますか?

はい。1つ目は、高校1年生の時だと思うのですが、ユースのアンダーカテゴリーの大会に出るのが2回か3回目で、その時に決勝にはいくけど決勝で負けてしまうということがあって。
そのユースの大会で勝つと海外の大会に出れるものだったので、どうしても海外の大会に出て世界の強い選手と戦ってみたいという気持ちがあって。そこでいろいろ自分で強くなる方法を考え始めて、日本代表を狙ったことがターニングポイントでした。
2つ目は、先ほども少しお話した、大学に入ったタイミングで、ヨーロッパのレジェンドの選手がワールドカップで戦っている姿を間近で見た時に「自分もあのぐらい極めたい」と思いました。

ー 後者に関しては、どのように取り組みが変わりましたか?

今まではなんとなく楽しくやってたのですが、その時からはさらに自分のクライミングを追求するというか。登り方だとか内容までしっかり深く考えるようになったのは、やっぱりその時からかなと思います。練習施設の課題が定期的に更新されるのですが、それまではそれをただ登れた、登れないだけで。
そこを登るために頑張っていた状態でしたが、そこからは大会を意識してだとか「根本」の部分で強くなれるように、どうして登れたのかとかどうして登れないのかの部分をもっと考えるようになりました。

「自分の世界に入り込んで考えて登れた時の達成感はすごく大きい」


ー ありがとうございます。では、競技者から見た、スポーツクライミングの魅力はどんなところだと思いますか?

やっぱり自分の世界に入り込んで、考えて登れた時の達成感はすごく大きいと思います。
クライミングは登り方に制限がないので、自分の体に合った登り方を考えたりだとか、他のところから学んだことをクライミングにどうやったら繋げられるかと考えてみたりして、それがクリアできた時はすごく達成感が大きくて楽しいです。
そういった思考の面だけではなく、何回もトライしていくという「ストイックに打ち込んでいく」部分もあって、そういう意味でもできた時の達成感は大きいので楽しく続けられているのではないかなと思います。

ー では、競技を見る人にとってはどういった点が魅力的に見えると思いますか?

観客の方もどうやって登ったらいいのかを一緒に考えられるという部分があると思います。
あとは、やっぱりリード種目に関しては一度きりしか登れないので、あの「落ちるかも」という緊張感を一緒に味わってくれるかなと思っています。リードは持久種目なので、最後の方になると体も辛くなってくるので、結構応援が大事だったりします。辛そうにしている選手を応援していただいたら、一緒に楽しめるかなと思います。

ー 競技中に応援の力を感じる時はありますか?

はい。本当に耐えて耐えて、最後一手絞り出すというイメージですので、最後の最後に力になると思います。

支えてきてもらった人を今後は自分が助けられるように


ー 大学を卒業するにあたって、気持ちの変化はありますか?(インタビュー日の約2ヶ月後にご卒業)

今までは家族だったり周りに守られてきたので、ここから社会人になったら逆に自分が助けてあげられるようになっていきたいなと思っています。
社会人になって責任感のある一人前の大人になりたいなと思います。

ー 練習ではお姉さんがサポートしてくださっているのですよね?

はい。姉は全員年が離れているので、教えてもらうことが多くて、今後は自分も成長して逆に助けてあげるということもしたいです。

ー キャリアについてお話を伺っていこうと思うのですが、セカンドキャリアについて考えたことはありますか?

はい、就職活動のタイミングで考えました。
クライミングで忍耐力とか思考力が備わったと思っているので、どんな仕事になるにしても役に立ったらいいなと思っていますし、自分だけができる登りを極めようとしてきたので、その知識を必要としている方に、先々教えたりできたらいいなと思っています。

ー 就職以外の選択肢は考えましたか?

クライミング業界に関しては、自分でお金を稼ぎながら競技を続けないといけない現状があると思っていますし、社会人としても成長した方が今後にも役立つと思っていたので、就職したいなと思っていました。

ー 将来的にプロになれたらという気持ちはありますか?

そうですね。もっと競技力が進んでいって、よりずっとクラミングのことを突き詰めたいという気持ちになったらプロになれたらいいなと思っています。
ただ、プロリーグがあるわけではないですし、年齢を重ねるごとにどんどん同じ世代の競技者は減っていってしまうのが現状だと思っています。陸上以外の個人種目は、どの種目も大変なのではないかなと思います。
特にクライミングは活躍の場がヨーロッパだとか海外がメインになるので、そうするとお金がどうしてもかかってしまうので続けることが大変で辞めてしまう選手が多いです。

ー 引退してからもクライミングに携わっていたいという気持ちはありますか?

今までやってきたことを、クライミングのために何かしらの形でできることがあったらいいなと思っています。

家族からのサポート


ー 引退後のセカンドキャリアのことを視野に入れて、現役の間にスキルを身につけていく「デュアルキャリア」という考え方についてはどう感じていますか?

少しずつでも競技以外のスキルを高めて、今後のために備えたほうがいいと思っています。
朝から晩まで練習することもあるのですが、1日中練習することを週7日続けることはできなくて隙間時間は絶対にあるので、その間に少しずつ勉強して、長い目で見たら絶対それは一つの形にはなると思います。
セカンドキャリアとして企業に就職しない場合でも、競技以外の知識は絶対に役に立つことだと思うので、他の分野で学ぶことはしたほうがいいと思っています。

ー 現時点で、引退後に向けて競技以外の能力を伸ばしておきたい気持ちはありますか?

はい、あります。今は競技で忙しいと気持ちがあるのですが、将来的にはクライミングをただやってきたというか、クライミングの技術があるというだけでは何にもならないと思っているので、他の知識が全体的に備わってきて自分の競技力の高さをうまく掛け合わせれば、何かできることがあるかもしれないなと思っています。
昔からその気持ちは同じなのですが、徐々に何をやらないといけないのかが明確になっているという気持ちです。
競技は自分がやりたいとこまでやると思うのですがやっぱり引退はくるので、もう体力的に限界だなと感じた時に、自分がやりたいことに対してその時できることがあるように、いろいろ準備はしておかないといけないかなと思います。

ー ありがとうございます。弊社のeラーニング研修コンテンツ(IT Fundamentals セルフペーストレーニング)を事前に見ていただきましたが、印象としてはいかがでしたか?

すごい細かい段階に分かれていて習得しやすいなという印象で、隙間時間を見つけて徐々に勉強できそうだなと思いました。
ITのことを今まであまり勉強してこなかったのですが、意外と入ってきやすかったので続けられそうだなと思いました。

ー ご自身で振り返ってみて、挫折したり辛かった時に周りからサポートしてもらった思い出はありますか?

日々の練習で感謝していることは多いのですが、基本的には一人で練習しているので、いろいろ考えていくうちに悩みまで考えてしまって、それをすごい溜め込んじゃったりもするんですよ。
そういう時に、家族と話して「こういう風に思っているのだけど」みたいに打ち明けて聞いてもらったりすることが、助けになっているなと思っています。
自分で考えることは好きなのですが、少し視野が狭くなったり頑固なところもあったりするので、例えば、大会が終わって結果があまり良くなかった時に落ち込んでしまったりして、でももうどうしたらいいかわからないみたいな気持ちになって、逆に考えられなくなってしまう時もあります。
そういう時に、家族と少し話をして、いつもと違う練習施設に行ってみたりして、改めて考えられるような練習をすると、また元気になってもっと前に進もうという気持ちになります。

ー ご家族とは頻繁にお話されるのですか?

そうですね。普段の練習ではどちらかというと自分が思ったことを「ここが良かった」と、話すことが多いです。 ですが、大会の後は自分は大会中は必死でやっていて、あまりどうだったかという記憶がなくて。そこで「こう見えたよ」ということを言ってくれて「ああ、そうだったんだな。ここがダメだったんだな」と思って、またそこの改善するために頑張ろうという気持ちになっていきます。
落ち込んでいたり疲れていたりすると「嫌だな」となりそうな時もありますが、あくまでもアドバイスを言ってきてくれているので、大会が終わったらわりとすぐに「これはこうだったんじゃない?」のような話は比較的毎回します。

ー 素敵ですね。では、2024年を振り返ってみて成長だとか反省はありますか?

一番最初の大会のジャパンカップで表彰台に乗って、ワールドカップではあまり自分の思うような結果が出なかったのですが、2022年にワールドカップ優勝してからまた流れが変わって、自分が更に上の段階に強くなっていけるようにするために試行錯誤が必要だと思っていて。
いろいろ自分の考えてみたことを、ワールドカップという場でもやってみたりしていた時期だったので、結果は良くはなかったと思っていますがいろんな経験はできて、学びは多かったかなと思います。

ー 出場する大会数も増やしたとお聞きしました。

はい。経験を積んで、いろいろやってみて「どこが良かったのか」と、さらに深められたなと思います。
大会に出るたびに改善点がたくさん出るのですが、次の大会に出て良くなっている部分と同時に改善点もまた出てくるので、ずっと繰り返し取り組む中で、最終的にはやっぱりさらに自分の登りを突き詰めて強くなっていったと思っています。

ー 今後の目標を聞かせてください。

今後は、まだ世界選手権で優勝したことがないので世界選手権で優勝することと、ヨーロッパの自然の岩のリードクライミングで難しいルートをたくさん登りたいということが、将来の目標です。
自分のリードクライミングの登りを極めるという気持ちでやってきているので、それが外の岩のリードだと難しい課題がたくさんあって、自分の登りが発揮される場所でもあるので、コンペもですが、自然の岩のリードの楽しさも経験できたらいいなと思っています。

ー 人生全体の目標はありますか?

クライミングを極めて周りの人に何か還元できたらなと思っています。

ー 本日はありがとうございました。引き続き応援しています!

ありがとうございました!


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