セキュリティに課題を抱える企業を対象に独自のセキュリティサービスを提供されている、株式会社CISO 代表取締役 那須慎二様によるセキュリティコラム第2弾 第5回。今回は、サイバー攻撃および防御における生成AIの活用についてご紹介いただきます。
前回は何故中小企業がサイバー被害に遭うのかについてご説明いただき、ランダムに脆弱なシステムに対しての攻撃を行っていく中で、母数の多い中小企業がサイバー攻撃に遭いやすい、とご考察いただきました。
何故中小企業がサイバー被害に遭うのか
今回はそうしたサイバー攻撃にも利用されており、防御側の活用も進んでいる生成AIがトピックです。
攻撃側/防御側でどんな活用方法があるのかをご説明いただいておりますので「攻撃者の活用方法を知識として持っておくこと」や「攻撃を防ぐための活用方法のインプット」などにつながるかと思います。
皆様のセキュリティ対策の一助になれば幸いです。
生成AIの勢いが止まりません。対話型AIであるChatGPTを筆頭に、テキスト、画像、動画、音楽等あらゆるジャンルで利用が進んでいます。海外の調査会社によると、年間成長率は優に30%を超えるほどになる、という見込みも出ています。
生成AIの利用は当然、攻撃者にとっても関心の的。例えばChatGPTを活用することで、プログラムのバグ潰しに貢献してくれるため、品質が高まることは攻撃者にとっても有利に働きます。
また、本来であればマルウェアの作成などには応じませんが、「脱獄」という特別な言い回しを使うことによってマルウェア作成にも悪用されるような研究がなされていたり、そもそも正規に投げかけるメッセージであったとしても、質問の投げかけ方によっては簡単に品質の高い攻撃用プログラムが作成されてしまうこと。質問を分割することで攻撃用プログラムであるとは思わせない方法によって利用されたりと、さまざまに研究がなされています。
マルウェアや攻撃用プログラムの作成だけに止まりません。
ChatGPTを用いることによって、英語や中国語等の外国語を流暢な日本語に翻訳し、我々日本人が違和感を持たないような日本語文の作成ができるようになりました。
これを悪用すると、フィッシングのような単純なメール攻撃にも簡単に応用ができてしまいます。現に昨年 (2023年)のインターネットバンキングによる不正送金被害額は87億円に激増。これは、一昨年(2022年)に起こった被害額の5.7倍。過去最高額であった2015年の30.7億円を優に超えるものでした。
そして、今後は動画や音声等にも悪用される可能性が高まるので注意が必要です。
例えば、生成AIを用いた動画は、本人の動画をわずか数分程度、生成AIに覚え込ませることによって、あたかも本人が喋っているであろう動画の作成が容易になりました。
東京都知事選で小池都知事が「AIゆりこ」を出現させたことで一躍有名にもなりましたが、あのような本人動画を素人でも簡単に作成することができるようになりました。
これは、有名芸能人の動画が悪用されて「投資詐欺」のような形態で広く利用される可能性がありますし、会社の中でも最高権限に近い役職(社長等)の動画があれば、それを悪用して財務担当メンバーに動画を送りつけて指定口座への振り込みを急かす等と、よりリアリティを持って金銭窃取行為ができてしまうことにもなります。音声メッセージをLINEやWhatsApp等へ送り、本人の音声であると信じ込ませる悪用もできてしまいます。
このように一般利用者のみならず、攻撃者や詐欺者などの悪意のあるものにも福音をもたらしている生成AIですが、これを応用してセキュリティ強化していくことも、もちろん可能です。
例えば、ChatGPTに「ランサムウェア被害を防ぎたいです。何故ランサムウェア被害が起こるのか。その原因を5つ、解決策を20個挙げてください。」と質問を投げかけた際に返ってきた内容は、概ね正しい回答を導き出してくれます。
大量のデータを持つログ情報から、危険性のある特定情報を抽出する指示を出すことで(例えば、ログ情報を渡して、この中から特に大量に攻撃をしているであろう(Rejectとして弾かれている)IPアドレスを抽出してください、等と指示を出すなど)、危険である予兆を突き止め、対策を打つなどに応用することもできます。
フィッシングメールや、詐欺メール等でよく使われている内容とその対策を教えてもらうこともできます。そのような内容をサンプルとして、標的型訓練メールに応用したり、注意喚起として社員に共有することもできます。
このように、最新のテクノロジーは表裏一体の価値をもたらします。
今後も生成AIを用いた攻撃は増え続けると想定されますが、守る側である私たちも、積極的に応用してみることをおすすめします。
那須 慎二(なす しんじ)
株式会社CISO 代表取締役
国内大手情報機器メーカーにてインフラ系SE経験後、国内大手経営コンサルティングファームにて中堅・中小企業を対象とした経営コンサルティング、サイバーセキュリティ・情報セキュリティ体制構築コンサルティングを行う。
2018年7月に株式会社CISO 代表取締役に就任。人の心根を良くすることで「セキュリティ」のことを考える必要のない世界の実現を目指し、長年の知見に基づく独自のセキュリティサービス(特許取得 特許第7360101号)を提供している。
業界団体、公的団体、大手通信メーカー、大手保険会社、金融(銀行・信金)、DX関連など業界問わず幅広く講演・執筆多数。近著に「知識ゼロでもだいじょうぶ withコロナ時代のためのセキュリティの新常識(ソシム)」あり。